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大阪地方裁判所 平成6年(ワ)4445号 判決

原告

甲野一郎

右訴訟代理人弁護士

松本勉

被告

乙川正

乙川勝

乙川弘

右三名訴訟代理人弁護士

阪口春男

今川忠

佐藤義幸

被告

東京海上火災保険株式会社

右代表者代表取締役

荒木襄

右訴訟代理人弁護士

楠眞佐雄

主文

一  被告乙川正、被告乙川勝は、原告に対し、連帯して金一億五三六五万二六六九円及びこれ対する平成四年一一月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告東京海上火災保険株式会社は、原告に対し、金五六九八万五二二九円及びこれに対する平成六年六月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告の被告乙川正、被告乙川勝及び被告東京海上火災保険株式会社に対するその余の請求及び被告乙川弘に対する請求を棄却する。

四  訴訟費用は、原告と被告乙川正、被告乙川勝、被告東京海上火災保険株式会社との間においては、これを一〇分し、その三を原告の、その余を被告乙川正、被告乙川勝、被告東京海上火災保険株式会社の負担とし、原告と被告乙川弘との間においては、全部原告の負担とする。

五  この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  原告の請求

一  被告乙川正、同乙川勝、同乙川弘は、原告に対し、連帯して金二億一八一一万〇七二五円及びこれに対する平成四年一一月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告東京海上火災保険株式会社は、原告に対し、金一億二〇四二万〇二六五円及びこれに対する平成四年一一月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

一  本件は、右折禁止の交差点を右折しようとした普通乗用自動車と直進していた自動二輪車が衝突し、同二輪車の運転者が負傷した事故に関し、右運転者である原告が、普通乗用自動車の運転者である被告乙川正(以下「被告正」という。)に対し民法七〇九条に基づき、同車の保有者である被告乙川勝(以下「被告勝」という。)及び同乙川弘(以下「被告弘」という。)に対し自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条に基づき、損害賠償(一部)を求めるとともに、自動二輪車を被保険自動車とした自動車総合保険の無保険車傷害保険契約を締結していた被告東京海上火災保険株式会社(以下「被告保険会社」という。)に対し、右保険契約に基づき、保険金の支払いを求めた事案である。

二  前提事実(証拠摘示がないのは争いのない事実)

1  次の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した(甲一、乙三)。

(一) 日時 平成四年一一月二三日午前六時ころ

(二) 場所 大阪市北区西天満四丁目一五番一〇号の交差点(以下「本件現場」又は「本件交差点」という。)

(三) 事故車 被告正運転の普通乗用自動車(神戸五二は○○○○、以下「被告車」という。)

(四) 被害車 原告運転の自動二輪車(なにわや××××、以下「原告車」という。)

(五) 事故態様 被告車が右折禁止車線から本件交差点を右折した際、同車線の右側車線を直進していた原告車と衝突したもの

2  被告らの責任

(一) 被告正は、被告車を運転するに当たり、本件交差点が右折禁止であるのにこれを無視して右折し、また、右折に際しては、自車右方の安全を確認すべき注意義務があるのにこれを怠り、被告車を原告車に衝突させたのであるから、民法七〇九条に基づく損害賠償責任を負う(乙二ないし六)。

(二) 被告車の登録事項等証明書(甲二八)によれば、本件事故当時、被告弘の所有名義であったことが認められるが、被告車は、被告勝が購入し、任意保険契約を締結したことが認められる(乙一二、一七)から、実際の所有者は、被告弘ではなく被告勝であり、したがって、被告勝が自己のため同車を運行の用に供する者として、自賠法三条に基づく損害賠償責任を負う。

(三)(1) 原告は、被告保険会社との間で、平成四年八月五日、以下の内容の自動車総合保険の無保険車傷害保険(以下「本件保険契約」という。)を締結した(甲六)。

① 被保険自動車 原告車

② 保険期間 平成四年八月五日午後一時から平成五年八月五日午後四時まで一年間

③ 保険金額 一名につき二億円

(2) 被告勝は、安田火災海上保険株式会社との間で、被告車について、対人賠償一億円を限度とする任意保険契約を締結していた。

(3) 原告は、被告保険会社に対し、本件保険契約に基づき、本件事故の賠償義務者が法律上負担する損害賠償責任の額(物損を除く)から自賠責保険によって支払われる金額及び任意保険の保険金額を差引いた金額の支払を求める。

しかしながら、本件保険契約の保険約款(丙五)第一一条但書によれば、本件保険契約の支払限度額は、同保険契約の保険金額二億円から任意保険の保険金額一億円を差引いた一億円になることが明らかであるから、原告の被告保険会社に対する右保険金請求は、一億円が限度となる。

3  被害内容

(一) 原告は、本件事故により、第六ないし第一〇胸椎の圧潰及び圧迫骨折(第七/八胸椎は脱臼)、胸髄損傷、両側肺挫傷、両肺血気胸、左第六肋骨骨折、右第八肋骨骨折、右鎖骨骨折、頚部捻挫、顔面挫創、急性呼吸不全、急性循環不全の傷害を負った(甲二)。

(二) 右傷害の治療経過は次のとおりである(甲七)。

(1) 平成四年一一月二三日から同年一二月二五日まで(三三日)行岡病院に入院

(2) 平成四年一二月二五日から平成五年一一月一二日まで(三二二日)星ケ丘厚生年金病院に入院

(3) 平成五年一一月一二日に症状固定

(三) 原告は、胸髄損傷により下肢機能全廃の後遺障害が残り、自賠法施行令二条別表後遺障害別等級表(以下「等級表」という。)一級三号(神経系統の機能に著しい障害を残し、常に介護を要するもの)の認定を受けた(甲七)。

4  損害のてん補

原告は、自賠責保険から三〇〇〇万円、安田火災海上保険株式会社から治療費一〇二万三〇二〇円を含む四二三万二五六〇円の支払いを受けている。

三  争点

1  過失相殺

(被告らの主張)

原告は、原告車を運転して本件交差点に進入するに際し、前方等を注視して安全に走行する義務があるのにこれを怠ったばかりでなく、法定速度時速六〇キロメートルのところを時速七〇キロメートルで走行した速度違反の過失があるから、少なくとも二割の過失相殺がなされるべきである。

(原告の主張)

被告車が走行してきた道路には本件交差点に至る相当手前から右折禁止の道路表示がなされていたにもかかわらず、被告正は、右表示を看過し、本件交差点を原告車の進路を妨げるような形で急に右折してきたために本件事故が生じたのであるから、本件事故は、被告正の一方的な過失によるものであることは明らかである。

2  損害(特に後遺障害逸失利益、自宅改造費、介護料)

(一) 後遺障害逸失利益

(原告の主張)

原告は、下肢機能全廃等の後遺障害のため等級表一級三号の認定を受けていること、星ケ丘厚生年金病院を退院後、症状が悪化し、約一時間程度しか車椅子に乗れない状況になっていること等から、上肢機能が残っているとしても、社会的な視点からみれば、労働能力喪失率は一〇〇パーセントとして評価すべきである。

(被告らの主張)

原告は、上肢の機能が正常であり、車椅子を利用することで自力で日常動作ができるから、従前の土木設計等デスクワークを中心とした稼働は可能であり、労働能力喪失率を一〇〇パーセントとすべきでない。

(二) 自宅改造費

(原告の主張)

原告は、前記後遺障害のため、平成七年二月一〇日、身体障害者用のマンションを新築し、身体障害者用部分の工事費用七四七万四七一〇円(内訳エレベーター工事一九〇万円、トイレ工事八六万四〇〇〇円、二階ドア工事三九万円、風呂工事五三万円、一階・二階の床の調整一六五万円、電動シャッター及び配線三〇万九〇〇〇円、洗面台一一万四〇〇〇円、調査及び運搬諸経費一五〇万円、消費税二一万七七一〇円)を要したが、その内金六九〇万二四四二円を請求する。

(被告の主張)

右損害のうち、本件事故と相当因果関係にあるものは、トイレ工事四万一〇〇〇円、二階ドア工事三九万円、風呂工事二六万円、一階・二階床の調整六〇万円、洗面台八万円、調査及び運搬諸経費二〇万五六五〇円である。

(三) 介護料

(原告の主張)

原告は、食事、洗濯、排便、入浴等につき、母や妹の介護がなければできないし、身内がいなくなれば、介助人が必要になってくる。

(被告らの主張)

前記した原告の後遺障害の程度、自宅の改造工事を勘案すれば、介助は必要ないし、仮に必要としても、原告の主張するような全面的な介助は必要ない。

3  本件保険契約がてん補する損害の範囲(弁護士費用及び遅延損害金)

第三  争点に対する判断

一  争点1(過失相殺)

1  前記認定事実及び証拠(検甲五、乙一ないし六、原告)によれば、以下の事実が認められる。

(一) 本件現場は南北道路と東西道路が交わる本件交差点内であり、付近の状況は別紙交通事故現場見取図(以下「図面」という。)のとおりである。本件交差点から北側に延びる南北道路(以下「本件道路」という。)は、七車線あって西側一車線のみが北行車線でその他六車線は南行車線であり、南行車線中、左から四番目の車線(第四車線、以下同じ。)と第五車線はいずれも直進のみが可能な車線(右折できる車線は右端車線のみ)であるが、その間に植込み街路樹があり、その南側延長線上の本件交差点の入口付近に工事安全柵(南北7.3メートル、東西2.6メートル、高さ1.8メートル)があって、第四車線からは右方の見通しが悪く、しかも本件事故当時はまだ薄暗かった。最高速度は時速六〇キロメートルに制限されている。本件現場付近の道路は、平坦でアスファルトで舗装されており、本件事故当時は晴れていて路面は乾燥していた。また、早朝で交通量は閑散としていた。

(二) 被告正は、前照灯をつけて被告車を運転し、本件道路の第三車線を北から南へ向かっていたが、本件交差点手前にある大きく表示された指定方向外通行禁止の標識と路面表示(以下「本件標識」という。)を看過し、本件交差点を第四車線から右折できるものと誤信して第三車線から第四車線に進路変更し、減速しながら右折の合図を出し図面③の地点で時速約二〇キロメートルで右折を開始した。図面④で図面の原告車を発見し(相互距離9.6メートル)、ブレーキを踏んだが間に合わず、図面の地点で被告車の右前部(図面⑤)が原告車(図面)に衝突した。

(三) 原告は、前照灯をつけ、ヘルメットをかぶり原告車を運転して本件道路の第五車線を北から南へ向けて時速六〇ないし七〇キロメートル位で走行し、本件交差点に進入しようとしたところ、突然被告車が第四車線から原告車の進路を塞ぐように右折し、右地点で衝突した。

2  以上の事実によれば、本件事故原因は、被告正が目立つ本件標識を不注意で看過して第四車線から右折できるものと誤信し、しかも、第四車線の右側には、植込み街路樹や工事安全柵があって右方の見通しがよくなかったのに右方の確認を十分に行わず右折したことによることは明らかである。これに対して、原告は、本件標識に従って第五車線を直進して本件交差点に進入しようとしたものであり、この際、右折禁止の第四車線からの右折車を予想した安全走行を行うべき義務はないし、右事故態様からすれば、原告車の速度が法定速度を一〇キロメートル程度超えていたとしても、右速度違反をもって原告の落ち度とすることは認め難いから、結局、本件事故は、被告正の一方的な過失により起こったものというべきであり、被告らの過失相殺の主張は認められない。

二  争点2(損害)

1  後遺症逸失利益(原告の請求額九三三七万四二三〇円)

(一) 前記認定事実及び証拠(甲二ないし五、七、一三、一四、乙七、八、一〇、丙一ないし四、原告)によれば、原告は、本件事故により第六ないし第一〇胸椎の圧潰及び圧迫骨折(第七/八胸椎は脱臼)等の傷害を受けて胸髄を損傷したこと、平成四年一一月二三日から同年一二月二五日まで行岡病院に、同月二五日から平成五年一一月一二日まで星ケ丘厚生年金病院にそれぞれ入院し、星ケ丘厚生年金病院にて、同年三月一二日、胸髄前・後方固定術を、同年四月一六日には、仙骨部褥創により仙骨部褥創筋皮弁移行術を受けたこと、平成五年一月五日から車椅子で自立した日常生活動作が可能になることを目標としてリハビリテーションを開始し、当所は褥創によりベッドサイドにて下肢可動域訓練を行うにとどまったが、同年六月ころから訓練室で下肢体幹の可動域訓練と上肢筋力強化を行うようになり、同年一〇月二九日、右目標を一応達成したこと(車の運転もできる)、但し、排尿・排便は独力でできるが、排尿はカテーテルで一日五回以上行う必要があるし、排便は一時間以上かかることがあること、同年一一月一二日、症状固定と判断され、胸髄損傷による下肢の不全麻痺(回復は見込みがたい)と膀胱障害の後遺障害(なお、上肢機能は正常)が診断され、等級表一級三号(神経系統の機能に著しい障害を残し、常に介護を要するもの)の認定を受けたこと、平成六年八月六日、ステロイドの大量投与による両大腿骨頭壊死の状態が発現し、骨頭の強度が低下していること、同年一一月三〇日、胸椎レベルの肋間神経痛による痛みが発現し(原告がいう背中の激痛のことであり、星ケ丘厚生年金病院よりロキソニンという消炎鎮痛剤をもらっている。)、車椅子に長時間乗ることが困難な状況にあること、本件事故当時、株式会社クレストエンジニアリングに勤務し、橋梁の設計等の仕事をしていたが、その内容は、単にデスクワークのみでなく自ら現場を見て依頼先に出向き綿密な打合せをした上で設計を行うものであったこと、原告は復職する意思があったが、平成六年春ころ、右会社の勧めにより同社を退職したことが認められる。

(二) 以上の事実によれば、原告は、上肢機能が正常であり、車椅子を利用しての自力での日常生活動作は一応できるようになってはいるが、神経系統の機能に著しい障害を残し、常に介護を要するものとして等級表一級三号の認定を受け、労働能力喪失率一〇〇パーセントと判断されていること、右動作についても、自力では行うことができるが、両大腿骨頭壊死により骨頭の強度が低下しているから、無理な荷重をかけるような動作をすることはできない上、長時間車椅子に乗ることは困難な状態であること、従前のような設計の仕事は、デスクワークの部分があるといっても、現場を見たり、依頼先との打合せで頻繁に外出することが必要となってくるところ、原告は車に乗って外出することが可能ではあるが、右身体の状態からすれば、将来、従前のような設計の仕事に就くことは、全く不可能ではないとしても、当人のかなりの努力が必要な上、原告が従前の会社から退職を勧められて退職していることからすれば、社会的環境としても困難な状況にあることが認められる。したがって、原告は、前記した後遺障害により労働能力を一〇〇パーセント喪失したものというべきである。

(三) 原告は、本件事故に遭わなければ、症状固定した二五歳から六七歳に達するまで四二年間就労が可能であり、その間、少なくとも毎年、平成四年度賃金センサス産業計・企業規模計・学歴計男子二五歳の平均賃金四一八万八五〇〇円程度の収入を得られた(顕著な事実)ものであるから、新ホフマン方式により中間利息を控除して逸失利益を算定すると次の計算のとおり九三三七万四二三〇円となる。

4,188,500×22.293×1.00=93,374,230

2  自宅改造費(原告の請求額六九〇万二四四二円)

(一) 原告の前記後遺障害の内容・程度に照らせば、原告の日常生活を容易にするためには、その居住部分を身体障害者用に改造することは必要であるところ、原告は、当初、大阪市北区中津〈番地略〉にあった自宅(以下「旧自宅」という。)の一階居室を改造することにしていたが、平成七年二月一〇日、同区中津〈番地略〉に身体障害者用の七階建てマンション(以下「本件マンション」という。)を新築し、同年三月二一日ころ、旧自宅から転居したこと、本件マンションの身体障害者居宅に伴う建築工事費用に七四七万四七一〇円を要したことが認められる(甲八、一二、二三ないし二七、検甲一ないし四、検甲六ないし22、乙一三の1、2、一四、一五、一六)。

(二) そこで、以下、右費用中、本件事故と相当因果関係のあるものを検討する。

(1) 身体障害者用エレベーター工事費一九〇万円

原告は、前記認定のとおり、旧自宅(一階居室部分)を改造することにしていたところ、自己都合で本件マンションを新築し、二階部分に居住したのであるから、右工事費は本件事故と相当因果関係が認められない。

(2) トイレ工事費八六万四〇〇〇円

本件マンションにはトイレが身体障害者用と健常者である家族用の二つが設置されているが、身体障害者用トイレは健常者との共用が可能であるから(乙一五、一六)、手すりの設備費四万一〇〇〇円を認めるのが相当である。

(3) 二階ドア工事費三九万円

二階ドア(玄関オートドア及び配管、内部引戸、折れ戸)工事費は三九万円を認める(争いがない。)。

(4) 風呂工事費五三万円

原告の前記した後遺障害の内容・程度からすれば、一般的な身体障害者向けの風呂で十分であるから(乙一五、一六)、右風呂工事費二六万円を認めるのが相当である。

(5) 一階・二階の床の調整費一六五万円

本件マンションの一階・二階床の調整は、モルタルを塗ることで可能であると認められるから(乙一五、一六)、右モルタル施工費六〇万円を認めるのが相当である。

(6) 電動シャッター及び配線費三〇万九〇〇〇円

車庫にガレージ扉を設け、電動シャッターにする右費用は、本件事故と相当因果関係がないものと認められる。

(7) 洗面台費一一万四〇〇〇円

身体障害者用の洗面台費としては、八万円を認めるのが相当である(乙一五、一六)。

(8) 調査及び運搬諸経費一五〇万円

本件マンションの工事規模等に照らし、調査及び運搬諸経費は工事価格の一五パーセント程度とするのが相当であるから(乙一五、一六)、右(1)ないし(7)の工事費合計一三七万一〇〇〇円の一五パーセントに当たる二〇万五六五〇円を認めるのが相当である。

(9) 以上によれば、本件マンションにおける本件事故と相当因果関係のある身体障害者用工事費は一六二万三九四九円(消費税四万七二九九円を含む。)となる(円未満切捨て、以下同じ。)。

3  介護料(原告の請求額九二二〇万二六五〇円)

前記した原告の後遺障害の内容、程度、自宅改造の内容等を勘案すれば、原告は、前記症状固定時(当時原告は二五歳)より五二年間(平成四年度簡易生命表二五歳男子平均余命)にわたり、日常生活につき他人の介護を必要とし、これに要する介護料は一日当たり五〇〇〇円を認めるのが相当であるから、新ホフマン方式により中間利息を控除して将来の介護料を算定すると、以下の計算式のとおり四六一〇万一三二五円となる。

5,000×365×25.261=46,101,325

4  後遺障害慰謝料(原告の請求額二五〇〇万円)

原告の前記後遺障害の内容・程度、その他本件証拠上認められる諸般の事情を斟酌すれば、後遺障害慰謝料は二四〇〇万円を認めるのが相当である。

5  入院慰謝料(原告の請求額四〇〇万円)

前記した入院治療の経過等の諸事情を考慮すれば、四〇〇万円を認めるのが相当である。

6  入院雑費(原告の請求額四九万七〇〇〇円)

原告は、前記認定のとおり、本件事故により平成四年一一月二三日から平成五年一一月一二日まで合計三五五日間入院し、一日当たり一三〇〇円の入院雑費を認めるのが相当であるから、入院雑費は四六万一五〇〇円となる。

7  休業損害(原告の請求額三四二万四二二五円)

原告は、本件事故当時、株式会社クレストエンジニアリングに勤務しており、平成四年一月一日から同年一一月二三日まで三二七日間で三一六万三〇五六円の収入を得ていたことが認められ(甲九、一三、一五)、また、前記認定した入院治療費の事実から少なくとも三五四日の休業を必要としたことが認められるから、原告の休業損害は、以下の計算式のとおり三四二万四二二五円となる。

3,163,056÷327×354=3,424,225

8  将来の雑費(原告の請求額七三七万六二一二円)

将来の雑費は、前記認定した介護料において評価済みであるから、これを認めないこととする。

9  物損(原告の請求額九〇万円)

本件事故により原告車は全損となったから、その時価である九〇万円を認めるのが相当である(甲一七)。

10  損益相殺

以上の損害を合計すると、一億七三八八万五二二九円となるが、前記のとおり合計三四二三万二五六〇円の損害てん補を受けているから、右金額を控除すると、一億三九六五万二六六九円となる。

11  弁護士費用(原告の請求額一八〇〇万円)

本件事案の内容、審理経過、認容額等を考慮すれば、本件事故と相当因果関係にある弁護士費用の額は、一四〇〇万円を認めるのが相当である。

三  争点3(本件保険契約がてん補する損害の範囲)

1  弁護士費用

被告保険会社は、本件保険契約の保険金請求権者である原告が被告保険会社を相手取って保険金請求を行ういわゆる「保険訴訟」に関する弁護士費用については負担する必要がない旨主張する。

確かに、本件保険契約上、被告保険会社が自己を相手とする訴訟の弁護士費用について、「保険給付」を予定していると解することには無理がある。しかしながら、原告が、本件のように任意に履行しない賠償義務者に対し訴訟を提起・遂行している場合には、原告が右訴訟で負担した弁護士費用のうち相当因果関係にある前記一四〇〇万円は、賠償義務者が法律上負担すべきものとなるから、被告保険会社は、本件保険契約約款第三章第九条一項(丙五)に基づき、原告の損害として、原告に対し、右一四〇〇万円を支払う義務があるものと解すべきである。

2  遅延損害金

被告保険会社が原告に対し保険金を支払うべき損害の額は、賠償義務者が原告が被った損害について法律上負担すべきものと認められる損害賠償責任の額によって定められることになっているが(本件保険契約約款第三章第九条一項、丙五)、原告は、賠償義務者が法律上負担すべき原告の損害の中には、本件事故日から発生している遅延損害金をも含む旨主張する。

しかしながら、不法行為に基づく損害賠償債務が不法行為の時から催告を要せず当然に遅滞に陥ると解されているのは、そうすることで賠償義務者に履行を促し、被害者の損害を速やかにてん補しようとしたものであるところ、本件保険契約の無保険車傷害保険は、被保険者である原告に対し、賠償義務者の加入する自賠責保険及び任意対人賠償保険によってもなおてん補されない損害を補完するものであり、被告保険会社が保険金を支払うべき損害の範囲については、保険金請求権者である原告と賠償義務者間における損害賠償額の確定を要件とせず、保険金請求権者と被告保険会社との協議等のてん補額確定の手続により決定する(同約款同条二項、丙五)のであるから、賠償義務者が原告に対する賠償義務の不履行により負担する遅延損害金までてん補しているものと解釈することは困難であり、原告の右主張は採用できない。

したがって、被告保険会社が原告に対し保険金を支払うべき損害の中には、賠償義務者が原告に負担する遅延損害金までは含まれず、結局、被告会社は、原告から本件保険契約に基づき、具体的に保険金請求を受けた本訴状送達日(弁論の全趣旨)の翌日である平成六年六月四日から遅滞に陥る。

3  以上から、被告保険会社が原告に対し、本件保険契約に基づき保険金を支払うべき損害の額は、一億八六九八万五二二九円(前記二、10の損害合計一億七三八八万五二二九円から物損九〇万円を控除し、弁護士費用一四〇〇万円を加えた額)から被告勝が加入していた自賠責保険金額三〇〇〇万円及び安田火災海上保険株式会社との任意保険の保険金額一億円を差引いた五六九八万五二二九円となる。

四  以上によれば、原告の請求は、被告正、被告勝に対し、連帯して金一億五三六五万二六六九円及びこれに対する本件事故日の翌日である平成四年一一月二四日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を、被告保険会社に対し、金五六九八万五二二九円及びこれに対する本訴状送達の翌日である平成六年六月四日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金をそれぞれ支払う限度で理由があるからこれを認容し、被告正、被告勝及び被告保険会社に対するその余の請求及び被告弘に対する請求はいずれも理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官佐々木信俊)

別紙交通事故現場の概況・現場見取図〈省略〉

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